革新脳共催シンポジウム
―革新的技術による脳機能ネットワークの全容解明にむけて

日時:
7月31日(金)13:30 - 15:40
場所:
第1会場(神戸国際会議場 メインホール)
座長:
池谷 裕二(東京大学・大学院薬学系研究科)
吉村 由美子(自然科学研究機構・生理学研究所)

13:30-13:55

4S01-1 Brain/MINDS:日本におけるブレインマッピング・プロジェクト

山森 哲雄(理化学研究所・脳科学総合研究センター)

現在米国におけるBrain Initiative, 欧州におけるヒューマンブレインプロジェクト(HBP)などを含め全世界的に脳の神経回路全容解明を目指したブレインマッピングプロジェクトへ大きな注目が集められている。我が国では、革新的技術による脳機能ネットワークの全容解明プロジェクト(Brain Mapping by Integrated Neurotechnologies for Disease Studies (Brain/MINDS))が2014年から開始されている。Brain/MINDSは、遺伝子改変が可能な小型の新世界サルであるコモン・マーモセットを用いるという特徴があり、A) 霊長類の脳構造・機能マップの作成、B) 霊長類の脳構造・機能マップの作成に寄与する革新的な解析技術の開発等、C) 精神・神経疾患患者および健常者の脳画像等データリソース統合にもとづく中核拠点霊長類回路マップと疾患研究チーム患者回路情報の連結の3つのグループに大別できる。講演では、Brain/MINDSの計画と展望について議論したい。

研究助成:Research funds : Brain Mapping by Integrated Neurotechnologies for Disease Studies (Brain/MINDS)

13:55-14:20

4S01-2 脳マップの作成と活用のための計算技術

銅谷 賢治(沖縄科学技術大学院大学)

「革新脳」のめざす霊長類の脳構造・機能マップの作成による脳機能と疾患の解明には、イメージングやゲノムなどの計測・操作技術だけでなく、先端的な情報技術の開発と活用が不可欠である。本講演では、イメージング等による3次元構造と時系列の大規模データの処理と解析、それらを統合するデータベースの構築、さらにそれを脳機能と疾患に関する知見につなげるための数理モデル化について、革新脳で計画している技術開発の概要について報告する。
 特に数理モデル化においては、脳全体での認知行動機能を再現するマクロスコピックモデル、大脳皮質などの神経回路の計算原理を解明するメゾスコピックモデル、それらの細胞と分子機構を明らかにするミクロスコピックモデル、それぞれについて各レベルの大量かつ多様なデータを最大限に生かしたモデル構築手法の開発とともに、異なるレベルのモデルをつなぐ大規模シミュレーションと解析手法の開発が求められる。
 モデル構築においては、ベイズ推定の枠組みによる機械学習技術をもとに、神経結合や細胞のパラメタの推定とモデル構造の探索手法の開発が進められている。マルチスケールのモデル統合においては、統計力学的な粗視化手法とともに次元圧縮などの機械学習手法の活用が求められる。これらに関して既存の手法のレビューとともに、新たな開発の現状と課題について報告する。

研究助成:Research funds : MEXT Strategic Research Program for Brain Sciences and KAKENHI 23120007

14:20-14:45

4S01-3 遺伝子で導入できる脳解析ツール

宮脇 敦史(理化学研究所 脳科学総合研究センター)

可視光を吸収あるいは放出するタンパク質を使って、脳の構造や機能を解析するためのセンサーやマニピュレーターが開発されてきた。そうしたツールを活用して、遺伝子改変実験動物の脳で起こる現象を深く、広く、細かく、そして速く、長く観る研究の実際を紹介する。また、可視光と相互作用するタンパク質が、「光と生命体との相互作用」を巡る人類の発見から生まれ、それらの生物学的存在意義に関する我々の理解を超えてますます有用になっていく過程を考察してみたい。

14:45-15:10

4S01-4 マーモセット脳の2光子イメージングと光操作に向けて

松崎 政紀(基礎生物学研究所 光脳回路研究部門)

近年、2光子顕微鏡の性能向上に加え、カルシウム濃度感受性蛍光タンパク質の開発が進んでおり、個体動物で多数の細胞活動を長期間計測することが可能となってきた。そこで私のグループは革新脳プロジェクトの技術開発個別課題として、マーモセット大脳皮質で多細胞活動の計測が可能な2光子顕微鏡の開発と、2光子イメージングを遂行中に実行可能な高次脳機能課題の開発を行う予定としている。これらの技術開発はこれまでに私たちが確立してきたマウスを用いた実験系の上に成り立っている。私たちはまず、頭部固定マウスにおいて右前肢を使ってレバーを操作すると水が与えられる、というオペラント運動課題を世界に先駆けて構築し、課題遂行中のマウスの大脳皮質運動野第2/3層の2光子カルシウムイメージングを行うことに成功した(Hira et al., 2013)。次にGCaMPをアデノ随伴ウイルス(AAV)によって神経細胞に導入することで、レバー運動学習中2週間という長期にわたって、運動野第2/3層と第5a層の多細胞カルシウムイメージング法、及びAAVが逆行性に取り込まれることを利用した皮質下投射細胞のカルシウムイメージング法を確立し、学習に伴って層ごとに異なる活動変化が起こることを見出した(Masamizu, Tanaka et al., 2014)。さらに、イメージング画像データからリアルタイムに標的細胞のカルシウム蛍光上昇を検出しその直後に水報酬を与えるという、単一細胞オペラント条件付けを確立し、条件付けを始めて15分以内に標的細胞活動が特異的に上昇することを見出した(Hira et al., 2014)。これらの方法論をマーモセットに適用可能とするため、頭部固定下での課題構築を始めるとともに、理研BSI高次脳機能分子解析チーム(山森哲雄チームリーダー)と共同でマーモセット大脳神経細胞の2光子カルシウムイメージング法の確立をめざしている。今回はこれまでのマウスでの実験系や2光子イメージング技術の現況などについてご紹介したい。

共催:日本神経科学学会・革新的技術による脳機能ネットワークの全容解明プロジェクト

15:10-15:40 総合討論